会社役員の法的責任と改正会社法
会社役員は「会社」「取引先などの第三者」に法的責任を負っています。
その責任をめぐって、株主代表訴訟や第三者訴訟を起こされるリスクがあります。
上記の法律を元に、訴訟を起こされるリスク
任務懈怠(けたい)責任を理由にした株主代表訴訟が多くなっています。
取締役や監査役は、その任務を怠ったことにより会社に生じた損害を賠償する責任を負いますが、この任務懈怠責任を理由に会社に代わって株主が提訴する株主代表訴訟が多くなっています。
また、株主代表訴訟では法律違反をした役員(行為者)だけでなく、監視義務を怠った(または見抜けなかった)役員も被告となることも多いため、全役員を相手に提訴されることを想定する必要があります。
具体的法令違反類型
具体的法令違反類型に該当する場合は、多くのケースで役員責任が認められています。
- 独占禁止法に違反するカルテル行為や刑法に違反する贈賄行為が代表例。
これらは、行為自体が禁止されているものです。 - 行為自体が禁じられているわけではないものの、実行するにあたっての手続きが定められている場合に、当該手続きを行わないと、やはり責任が肯定されます。
競業取引規制や利益相反取引規制が代表例です。 - 「法令」には外国の法令も含まれる。法律のほか、政令・条例も含まれます。
抽象的法令違反類型(経営判断原則類型)
役員自らが経営判断した事由について、法令上の責任は無くても責任を追及される場合があります。
●役員様の責任有無判断のポイント
- 具体的な法令・定款違反がないこと
贈賄行為によって新規の契約を取得したような場合、契約の内容が会社にとって有利であったとしてもこの要件を欠くことになります。 - 前提事実の認識に重要かつ不注意な誤りがないこと
簡単な調査で債務超過であることが判明するにもかかわらず、優良会社と信じて買収した場合この要件を欠く可能性があります。 - 判断の過程・内容が特に不合理・不適切ではないこと
企業価値が1億円であることを認識しながら特に合理的な理由もなく10億円で買収した場合、前提事実の認識に誤りはないが、判断の内容が不適切であり、この要件を欠く可能性があります。
上記①②の過失が問えない場合は、以下③、④の体制整備不備に該当するか否かが検討されます。
監視義務(狭義)類型
自分以外の役職員の違法行為について『認識しながら』、あるいは『認識し得たにもかかわらず』適切な対応をとらなかった場合には、責任が肯定される可能性があります。
内部統制システム構築義務類型
たとえば地方の支社で起きた不祥事について、海外在住の取締役は認識可能性すら無いこともありますが、この場合も何ら責任が問われないということではなく、違法行為の発生防止のために必要な体制整備を適切に行ったか否かが問題とされます。
自己の担当業務以外についても監視義務を負うことに注意が必要です。違法行為の発生防止だけでなく、万が一違法行為が発生した場合に早期に発見して改善できる体制を構築しておくことも重要です。
さらに、2015年の改正会社法施行により役員の責任がより重要視されています。
大きく3点の改正が盛り込まれています
企業統治(コーポレートガバナンス)関連 親子会社(企業結合)関連 M&A関連
大区分 | 項目 | 概要 |
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企業統治関連 |
「監査等委員会設置会社」制度の新設 | 監査役に代えて監査等委員会(過半数は社外取締役で構成)を置く会社形態とすることを選択できるようになる。 |
社外取締役・社外監査役の要件厳格化 | 役員の親族や親会社の取締役などは「社外」と認められなくなる。 これにより、社外の有識者や関係先に新たに社外役員として就任を要請するケースが出てくるものと予想される。 |
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社外取締役を設置しない理由開示の義務付け | 大企業については、社外取締役を設置しない場合、定時株主総会において、「社外取締役を置くことが相当でない理由」を説明することが義務付けられる。これにより、新たに社外取締役を設置する企業が増えるものと予想される。 | |
親子会社関連 |
多重代表訴訟制度の新設 | 親会社株主による一定の範囲の子会社役員の責任追及が可能になる。これにより、非上場子会社の役員も株主代表訴訟のリスクを負うことになる。 |
親会社による子会社の株式等の譲渡 | 親会社が一定の子会社の株式等を譲渡する場合は、その効力発生日の前日までに株主総会の特別決議による承認を受けなければならない。 | |
M&A関連 |
特別支配株主の株式等売渡請求 (キャッシュ・アウト) |
総株主の議決権の90%以上の議決権を有する株主が会社の承認のもとに、他の株主全員に対して全株式を売り渡すことを請求できる制度の創設。 |
支払株主の異動を伴う募集株式の発行等(第三者割当規制) | 公開会社は、ある引受人(親会社等を除く)に募集株式を割り当てることにより、その引受人が総株主の議決権の過半数を有することとなる場合、払込期日の2週間前までに株主に対し、引受人の氏名・名称等を通知・公告を行う。 |
役員への影響①
親会社役員の子会社管理責任
内部統制システムに関する会社法の条文が改正され、取締役会で決議しなくてはならない内部統制システムの内容に「当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するための体制」が含まれることが会社法に明記されました。
親会社役員の子会社管理責任が、従来以上に重要視されます。
役員への影響②
多重代表訴訟制度の新設
株式会社における親会社株主保護のための措置として、親会社の株主が子会社の取締役・監査役の責任を追及するための制度(多重代表訴訟)が新たに創設されました。
グループ内で「完全子会社等A」及び「完全子会社等C」に該当する子会社は多重代表訴訟の対象となりえます。